オムライスと珈琲【食暮エッセイ vol.1】
仕事の帰り、商店街を通り抜けて駅へ向かう。
身体が縮こまるように冷え込む、11月末の夜。
ランプの灯りがほっと心を温めてくれる。少し早めのクリスマスソングが耳に入り、商店街が12月に向けて準備をしていることに気付いた。
ふと、喫茶店に行きたいと思った。
オムライスと珈琲ーー
夕食のメニューを考えるのをやめて、通りがけに気になっていた喫茶店に足を運んだ。
店内に入り、オムライスを注文。
メニューをひと通りみて、どれも美味しそうなものばかりだったけれど、この日はやっぱりオムライスの気分。”喫茶店のオムライス”というのは、なぜ心が動かされるのだろう……
正直なことをいうと、オムライスにすごく思い出があるわけでもなく、普段から家で作ることもない。実はケチャップがあまり得意ではないので、真っ赤なケチャップライスが包まれているオムライスを食べたくなる自分のことを、不思議に思うくらい。
自分で作って食べたいかと考えると、そういうわけでもなくて。喫茶店でオムライスを食べて、珈琲を飲むという体験に価値があり、自分にとって意味があるものだと思った。
15分ほどして、オムライスが目の前へ。
デミグラスソースがかかった、ふわふわなオムライスにタルタルソースがのっている。
お皿に添えてあるマカロニサラダも千切りのキャベツも、普段あまり食べない味なのに、どこか懐かしく感じた。
店内のゆったりとしたBGMと、お客さんの会話の心地よさに浸りながらオムライスをいただいた。
オムライスを食べたあと、珈琲を注文した。
ちょっと苦めに淹れてあり、熱々でおいしい。
金色のスプーン、ポーションミルク、スティックシュガー。どれも使わないけれど、改めてみると懐かしいような気持ちになる。喫茶店文化なのかな。
周りのお客さんを気にしながら少し急いでいる様子の定員さんに「使わないので大丈夫です……!」とは言えず、そのままおいてもらった。
19時15分
だんだんと店内に人がふえてきた。
「ソースカツ丼、ごはん大盛りで」と隣の席で注文していたのは、仕事帰りの50代くらいの男性。手前の席には、私と同じくらいの年齢のスーツを着た男性3人が、次々にメニューを注文していた。「ごはん大盛りで」という言葉は、きっと常連さんたちの共通言語なのだろう。
少し離れた席にはお母さんと小さな子ども2人が楽しそうにしている。
老若男女、さまざまなお客さんがいる喫茶店は、料理が届くまでの時間もたくさんの発見があり、人々の日常の一部を垣間見るような、心地よい時間だった。
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